「事実」という言葉の意味を調べると,「実際に起こった事柄,現実に
存在する事柄」ということが書かれています。
世の中には毎日毎日たくさんの出来事が生じており,私達はその中の
1部を事実として体験・認識しているに過ぎません。
個人が体験・認識した以外の出来事を知ろうと思えば,それは他人に
頼るしかありません。その頼る先の最たるものが「マスメディア」です。
毎日毎日,テレビ・ラジオ・新聞・雑誌等から多くの出来事が伝えられて
いますが,しかしその出来事が「事実」か否かは全く別問題です。
私達は,マスメディアの報道が「事実」であると勘違いしがちです。
しかし,それが「事実」でないことが多々あることは,近年の冤罪事件等で
明らかだと思います。
もちろん,新聞記者等マスメディアの中で働いている人たちも,中立的立場から
「事実」を伝えようと努力していることは理解していますが,私は「事実」を伝える
ことは無理だと思っています。マスメディアも商売の面を抜きにしては
成り立ち得ない存在であり,まずは売れることが第1条件となります。
また,マスメディアには報道の自由(取材の自由)が保障されているため,
取材をした素材を編集して公表するまでの間には,どのような出来事を
どのような視点で報道するかという点で,ある種の主観が絶対に入り込みます。
このような状況にあって,実際に起こった事柄即ち「事実」を伝えることが本当に
可能でしょうか。
マスメディアはなくてはならないものであり,非常に重要なものであるがゆえの
ジレンマを感じています。
私は,テレビ等から得られる情報を鵜呑みにせず,1歩引いて冷静に自分で
判断することが必要だと思っていますが,皆さんはどのように思われますか。
今後もマスメディアが様々な情報を発信すると思いますが,特に刑事事件で
被疑者が逮捕されたという報道に接したときは,逮捕の事実=罪を犯した事実
とは 絶対に考えないようにしてもらいたいと思います。
弁 護 士 齋 藤 守